ユダヤ人と言語 Jews and Languages

Yiddish in Japan みんな何かでマイノリティ

手話の小説『デフ・ヴォイス』 丸山正樹著

NHK手話ニュースでおなじみの木村晴美先生に紹介していただいた本です。

(こちらの記事も:小説で手話の世界 - ユダヤ人と言語
失業中の中年男性が、手話をつかって再出発します。やり直しの人生だったつもりが(多分)、過去のいろいろな出来事とリンクしてしまいます。ただ者ではなさそうだけど、一見ただのおじさんのすごさ、おじさんに恋人がいる理由が徐々にわかってきました。
手話については、多くの人々がテレビやライブで見たことがあり、その存在も知っているだろうと思いました。その一方で「ろう者」、「コーダ」、「手話通訳士」についてはどうだろうか。私もつい最近までよく知りませんでした。国立障害者リハビリテーションセンター学院で非常勤講師として働くようになって初めて、手話のできない自分がろう者の方とどうやってコミュニケーションを取るのがよいのかということについて考えるようになりました。
メールでのやり取りでは、私自身は全く不自由を感じなかったのに、対面した瞬間どうすれば良いのかわからなくなったのでした。「私は一体どうするつもりだったんだろう」宮澤先生が通訳してくださったから助かったものの、挨拶すら覚えてこなかった自分、自分は手話ができないから通訳をつけてほしいとあらかじめお願いしなかった自分に情けなさを感じるなんとも言えない気持ちでした。あのときのことは今でもよく覚えています。
『デフ・ヴォイス』には、これまで自分が聞いたり読んだりした手話の世界の話がわかりやすく説明されていました。手話がまだできない人たちにとっては、手話の世界を知るための教科書的な機能もあると思いました。手話の世界にいる人たちにとっては、ご自分たちの世界を他者の視点から描き出してくれた心強い存在なのではないかと想像しました。
ろう者の人たちの悔しいおもいや、コーダの人たちの複雑なおもいがとてもリアルに伝わってきました。日本語という圧倒的な国家の言語がある中で日本手話を使って生きるろう者やコーダについての話というだけではないと思います。圧倒的に権威がある強い言語の中で生きているマイノリティ言語ユーザーの話、圧倒的な権威の中で生きるマイノリティの話としてさらに広がりのある作品だと思いました。
最後に、ろう者や手話について取材され、こんなにも人をひきつける作品にするのは本当に大変なことなのではないかと思いました。それをやってくださった丸山さんに本当に感謝しています。