ユダヤ人と言語 Jews and Languages

みんな何かでマイノリティ。鴨志田聡子のブログです。All of us are minorities. By Satoko Kamoshida

『エルサレムの悲哀』のこと

ヘブライ語の翻訳者として長年アモス・オズという作家の作品を日本語に翻訳してきた村田靖子氏が、去年の夏『エルサレムの悲哀』(木犀社 2018)という一冊の小説を発表されました。私にとってはあまりに唐突なことに感じられ、本文を半分くらい読むまではかなり驚き、戸惑いました。

本書は9つの短編から構成されています。ネタバレになるので、内容について語るのは控えますが、「エルサレム、まさかだけど、あるある、もしくは、あるだろうな」が結構あって楽しめます。とはいえ内容は、重いものです。

一話はそれほど長くなく、文章もかなり読みやすいです。ただエルサレムのマイノリティについての知識がなかったり、想像できない場合はなかなか難解に感じるかも知れません。とはいえ知らない場合は、ずいぶん勉強になるのではと思います。本文にはかなり親切な解説が織り交ぜてありますので、読み進めやすいです。それと、本の装丁のおかげで、読みながらエルサレムの乾燥した空気や砂っぽさを感じられて嬉しかったです。

正直言って英語で出版されたほうが、共感してくれる読者に届きやすかったのではないかとも思いました。けれども小説の内容を踏まえ、村田氏と議論をして、日本語でエルサレムに住む人々の日常を綴ることはご本人にとって大事なプロセスで、我々がこれから受ける恩恵も大きいだろうなと感じました。

ちなみに、村田氏によれば本書の英訳の要請もやはりあるそうです。全訳されるといいですが、とりあえず9つのうちのひとつ「約束」は ”The Promise” として英訳されています。

英訳はこちら
The Promise - The Pythians

ちなみに村田氏が長年訳してきたアモス・オズは2018年の12月に亡くなりました。本書『エルサレムの悲哀』出版から5ヶ月後のことでした。一つの時代を感じました。