ユダヤ人と言語 Jews and Languages

みんな何かでマイノリティ。鴨志田聡子のブログです。All of us are minorities. By Satoko Kamoshida

マイナー言語を学ぶということ

方言を話す方の多くは、東京で偶然その方言を話す人に出会って心が熱くなる経験をしたことがあるのではないでしょうか。私も自分が子どもの頃に話していた方言を東京できくと、急に故郷の景色や思い出が蘇ってきてなんとも言えない気持ちになり、思わずその話者に話しかけたくなります。

さて、マイナーなものには、それを理解できる人にしか分からない特別な魅力があります。私は若いときに故郷を離れ、その後東京に住むようになりました。残念ながら今では自分がもともと話していた方言を話せなくなってしまいましたが、ユダヤ人のマイナー言語をいくつか話すことができるようになりました。マイナー言語の習得はいつも難しくて、何度も挫けそうになりました。どうやって学べば自分が使えるようになるのか、考えに考え抜いて自分で学ぶ体制を作ってきました。今では先生や勉強仲間を探し、出会い、彼らに受け入れてもらうこと、信頼関係を築いていくことが一番大事だと考えています。もちろん自分にとって良い教科書や辞書を使うこともとても大事です。

新たに言語を習得することは挑戦的ですが、未知の世界を発見するチャンスでもあります。そのチャンスはマイナーな言語であればあるほど大きいのです。

私はメジャーな言語の他に、ヘブライ語ユダヤの言語としてはメジャーです)、イディッシュ語、ラディノ語(ユダヤスペイン語、ジュデズモとも呼ばれます)を話せます。ヘブライ語イスラエルの大学で学び、友人や先生、街中の人たちと話して習得しました。ヘブライ語をは習得するチャンスに非常に恵まれた言語としても知られています。この言語を学び、使う環境は整っています。勉強仲間や話し相手を日本で見つけるのも実はそんなに大変なことではありません。

さて、よりマイナーな言語は大変です。私の場合、イディッシュ語リトアニアアメリカ、イスラエル、フランスの大学などの語学講座を受講し、それをきっかけに出会った先生や友だちと会話力や読解力をつけました。今はオンラインでみんなと会うことができますが、私が勉強を始めた20年前はメールや電話で時々連絡し合っていました。たまに夏期講座で会ったりすると、本当に嬉しかったです。SNSが発達したおかげで常にイディッシュ語の仲間とつながっているような気分にもなれるし、必要があればメッセンジャーですぐに連絡を取り合えるし、オンライン会議も一般的になったしで、話者人口も学習者人口も比較的多い今はイディッシュ語は本当に学びやすい言語になりました。

そんな中でも更にマイナーなラディノ語については、言うまでもなく、学習と実践の場を見つけるのが非常に難しかったです。オンライン会議もその仲間に入るまでの敷居がイディッシュ語よりも高く、話者人口も学習者人口も少ないため、その言語に触れる時間がかなり限られています。結局、自分がスペインで学会発表したときに非常に充実した研究者コミュニティに「パリにおいでよ」と受け入れてもらい、悩みに悩んだ末、心の声に従って学習環境を求めパリに住むことにしました。パリでの生活は運良くトントン拍子に始動したものの、物価高に苦しみました。そんな中でも語学講座や個人レッスン、ワークショップ参加の機会を次々と得て、粘り強く続けた結果この言語を習得しました。

翻訳ソフトが凄まじい勢いで発達する中、なんのために大変な思いをして言語を学ぶのか、哲学するマイナー言語の学習者たちは多いと思います。それは先生たちも同じかもしれません。ですが、言語の習得の過程こそが皆さんの人生をより豊かなものにしてくれます。魅力的な人や作品に出会ったとき心があたたかくなり、苦労は必ず報われます。みなさんも、ぜひチャレンジしてみてください。