ユダヤ人と言語 Jews and Languages

みんな何かでマイノリティ。鴨志田聡子のブログです。All of us are minorities. By Satoko Kamoshida

外大の授業のこと 雑感

今学期は東京外国語大学で、Collective Memories of Jewish People in Films and Texts (映像とテキストにみるユダヤ人の集合的記憶) という授業をしました。zoomを使ってのオンライン授業です。英語で授業して学生の皆さんにも英語で発表やディスカッション、コメント書きをしてもらいました。先ほど授業を終えたところです。記念に、今自分が感じるままに書き綴ってみようと思います。

 

短い間でしたが学生のみんなが成長する姿を見ることができ幸せでした。素敵だなあと思いました。将来さらなる発展を垣間見るのが楽しみです。

 

これまで外大ではイディッシュ語と東欧系ユダヤ人の文化を主に教えていました。今学期は思い切って、自分の今の研究テーマを授業で扱ってみました。アシュケナジーユダヤ人とセファルディー系ユダヤ人の集合的記憶をテーマにしました。

 

最初ちょっと私が授業したあと、学生自身に、個人や一部の地域のユダヤ人に注目して、テキストや映像を題材に調査と発表をしてもらいました。テーマは自分で見つけたり選んだりしてもらい、グループを作ってもらいました。個人でやった人もいます。

 

学生が発表について書いたコメントには、多くの輝きや優しさが見られました。知らない人同士が多かったとみられるオンライン授業で、学生がお互いを思いやり、リスペクトしている様子がコメントの中からも感じられました。感動や発見がありました。私自身は仲間がいるような気持ちが湧いてきて非常に励まされました。

 

この授業の調査と発表は、いずれにしても一般的に日本人があまり知らないようなことを調べ、英語でスライドを作り説明する必要がありました。大学1年生もいましたし、テーマもマイナーなのではじめてのことも多くて大変だった人もいたと思います。

 

そして発表後は、成功したと感じた人も、もっとうまくやりたかったと感じた人もいたようです。でも私としてはいずれの発表も興味深かったです(今後自分が失敗したと思ったときは、このことを思い出そう)。

 

内容はもちろんですが、その人がなぜテーマを選んだか、それをどう理解し、どう他の人に伝えようとしているかを見て、個人的には多くの学びがありました。どれも意味深い発表でした。

 

多くの学生がコメントに書いていましたが、歴史で学んだ大きな事件やいわゆる一般常識も、個人的な体験を通して知ることで、理解が深まります。そして意外な側面が見えてきます。私もそう思います。

 

大学から授業は英語でやるように依頼されていました。言語を研究する者としては、いろんな葛藤がありましたが、英語でコミュニケーションすることで、なぜかオープンになれるところもあるなと思いました。別に上手くもない英語ですが、どこかで自分自身が慣れているのかもしれないです。コロナ禍で、自分が家族以外と日本語で話すことが非常に少なくなりました。イディッシュ語とラディノ語でオンラインミーティングを続けていたのも関係ありそうです

 

授業では、ユダヤ人の集合的記憶について学んで窪田由佳子著『シベリアのバイオリン』(2020、地湧社)を教材に日本人の記憶にも注目しました。シベリア抑留の想像を絶する辛い側面についてだけではなく、創造的で文化的な活動をされたことが書かれています。個人的にはユダヤ人の文化的活動とも重なるところがあるとも思いました。いつか授業で読みたいと思っていて、今回思い切って授業に結びつけて、著者の窪田さんにゲスト出演までお願いしました。

 

まず授業でこの本をみんなで順番に音読しました。まず、ユダヤ人をテーマに英語でコミュニケーションしてきた仲間と、日本人について日本語で読むのはとても新鮮でした。日本語で読むのに、それについて話すときは英語になってしまうのは面白いなと思いました。ハッとして、日本語に切り替えてみましたが、また英語に戻ったりします。

 

イディッシュ語話者の読書会のことを考えました。普段は英語やヘブライ語など他の言語を話している人たちが(イディッシュ語母語話者もいますし、普段もイディッシュ語の人もいます)、読書会中はイディッシュ語で文学を読んでディスカッションをします。

 

外大の授業に話を戻すと、最終回では『シベリアのバイオリン』の著者の窪田由佳子さんにzoomでお話をしていただきました(小学校なども含めて様々なところで講演をされているとのことです。お名前や本のタイトルで検索してみてください)。

 

コロナ禍で子どもたちの学校のイベントは軒並み中止だったり、留学の予定があったのにできない学生を見たりし、私も海外調査の予定が立てられなかったりしています。が、コロナ禍であるからこそできていることが、こうしてたくさんありますね。たまに寂しさも感じますが、充実してはいます。ということで、引き続きなるべく楽しい文化的な生活をしていこうと思ってます。

 

これから暑くなりそうですが、どうぞお身体をお大事になさってください。

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