ユダヤ人と言語 Jews and Languages

みんな何かでマイノリティ。鴨志田聡子のブログです。All of us are minorities. By Satoko Kamoshida

非ヨーロッパ系ユダヤ人とホロコースト

キリル・フェフェルマン(Kiril Feferman)という研究者による「ナチ占領下ソ連の非アシュケナズ系ユダヤ人の運命」(“The Holocaust in the Crimea and the North Caucasus: The fate of non-European Jews under Nazi occupation”)という題の講演を聞きました。この地域のことは関わっていないとなかなかわかりにくいと思うのですが、東欧・ロシア・ユダヤ史研究の重要人物、高尾千津子先生の解説付きでわかりやすくお得な会でした。

彼は『クリミアと北カフカスにおけるホロコースト』(The Holocaust in the Crimea and the North Caucasus, Yad Vashem, 2016)という本を英語で出版しています。

私は非ヨーロッパ系のユダヤ人とホロコーストについて、まとめて本になっているのはあまり見たことがなかったのですが、ちらほら聞く話だったので興味を持っていました。

カフカスコーカサス)は、ドイツにとってモスクワ包囲や中東進出のための割と重要な拠点の一つだったとのこと。そこにはユダヤ人が住んでいました。ドイツ占領地にいるユダヤ人。ヨーロッパのユダヤ人だったら、掃討の対象になっているところだったが・・・。

この地方は、第二次世界大戦でドイツが占領したなかでももっとも東で、一般のホロコーストの文献などで全然扱われないので、この地域の話はあんまり知られていない話みたいです。フェフェルマンも、どこの国でもあんまり知られてないんだけどといっていました。

カフカスクリミア半島はドイツ軍に占領された時期が異なるのと、軍司令官のユダヤ人に対する態度も違っていました。こういったことが、この地方にいたユダヤ人の運命に影響したようです。

フェフェルマンによれば、ここのユダヤ人はタルムードを持っていなかったみたいで(全くなかったわけじゃないかもしれませんが)、宗教的にも厳密にはヨーロッパ系と違ったみたいです。まあそれでも宗教的にはユダヤ教の一部だったのですが、民族的にはヨーロッパ系ユダヤ人と違ったみたいです・・・。フェフェエルマンがここ出身のユダヤ人に会った感想は「彼らは山に住んでてタフ」、ヨーロッパ系と違うみたいです。ドイツは、非ヨーロッパ系ユダヤ人に対して、ヨーロッパ系ユダヤ人に対してとは別の対応をする事にしました。

ユダヤ人たちの処遇をどうしようか・・・。ドイツは遠征先では決められず、ベルリンと相談しなきゃいけなかったようです。しかもたんにユダヤ人を同行すればよいという話ではなかった・・・。北カフカスには、イスラム教徒がたくさん住んでいて、そこのイスラム教徒は山岳ユダヤ人とけっこう仲が良かったようです。

ドイツ的にはこの地域をモスクワ包囲や中東進出の拠点の一つと考えており、要所を荒らしたくなかったとのこと。イスラム教徒に悪く思われないように配慮する必要がありました。もし山岳ユダヤ人にひどいことをしたら、ドイツとそこのイスラム教徒との関係を壊してしまう・・・。

そこで、まあ山岳ユダヤ人は三千人くらいと比較的少人数だし、非ヨーロッパ系だし、彼らのためにこの地域で問題を起こして今後の可能性を断つのは得策ではない。ここはひとまず穏便に済ませようということになりました。

山岳ユダヤ人、イスラエルにも住んでいるみたいです。フェフェルマンは山岳ユダヤ人に直接会って調査したと言っていました。私もいつか会いたいです。

講演のあとで雑談して知ったのですが、彼はイディッシュ語を話す人でした。なんだか和む時間でした。